農業技術系スタートアップが柑橘類グリーニング病対策に希望をもたらす
南豊みかん、贛南ネーブルオレンジ、褚橙(ちょとう)などの柑橘類は、爽やかな味わいと保存のしやすさ、秋から冬にかけての出荷時期から消費者に人気があります。しかし、世界中の柑橘類農家は重大な課題に直面しています。それが、柑橘類グリーニング病(Huanglongbing、HLB)です。
この病気はその深刻な被害から「柑橘類産業のがん」と呼ばれています。近年、果実の価格変動による影響や一部の果樹園の管理不足により、被害が拡大しています。また、冬季の気温上昇により、媒介虫であるミカンキジラミの北方移動が進み、越冬する虫の数が増加した結果、大規模な感染が発生しました。この病気は中国の10省にわたる267の県で確認されており、特に広東省や福建省といった旧感染地域では深刻な状態が続いています。また、贛南、湖南南部、広西北部といった主要産地でも感染拡大の傾向が見られています。
柑橘類グリーニング病の病原体研究
柑橘類グリーニング病の病原体を分離・培養することは学術界における大きな課題となっています。2009年、Sechlerらはアジア型、アフリカ型、アメリカ型の3種類の病原体の分離・培養に成功しました。これには、搾り滴下法(squeeze-drop method)および断片浸漬法(mince-soak method)という2つの方法を用い、柑橘葉柄抽出物を加えた特製培地「Liber A」を用いました。培養された病原菌は固体培地上で多形性の桿状を示し、傘状の構造を持つことが確認されました。
病原体の遺伝的多様性解析は主にrDNAおよびβオペロンの研究によって進められており、アジア型(Ca. L. asiaticus)、アフリカ型(Ca. L. africanus)、アメリカ型(Ca. L. americanus)の3種類の病原菌が特定されています。特にフロリダ株の全ゲノム配列解析は、特異的な治療法の開発を推進する重要な一歩と考えられています。
病原体・媒介虫・宿主植物の相互作用研究
柑橘類グリーニング病の病原菌は、感染植物およびミカンキジラミの体内で越冬し、ミカンキジラミによって近距離(50m未満)に拡散されます。研究によると、ミカンキジラミ成虫は健康な植物よりも病気にかかった植物を優先的に選択することが確認されています。
また、黄色、緑色、白色の粘着板を使った実験では、黄色が最もミカンキジラミを引きつけることが分かりました。さらに、病原体に感染した柑橘類は特定の揮発性物質を生成し、ミカンキジラミをより強く引き寄せます。その中にはメチルサリチル酸(MeSA)も含まれ、この物質はミカンキジラミ雌の定位能力を高めると考えられています。
公的機関による対策
米国農務省(USDA)は、2011年の有害生物警報 ↗において、2005年に米国で初めて柑橘類グリーニング病が確認されたことを報告しました。2011年までにフロリダ州全域が感染地域となり、厳しい検疫措置が取られました。2009年以来、USDAはこの病気の対策に4億ドルを投じ、2014年以降、5700万ドルの研究資金を提供しています。
進展は見られるものの、いまだ根本的な治療法は見つかっていません。2019年には、柑橘類に抵抗性を持たせる遺伝子組み換えウイルスの使用が承認されました。また、複数の企業が病気の拡散を抑制する農薬を開発しています。
スタートアップによる解決策
耐病性のある柑橘類の育成
2017年10月、米国のバイオテクノロジー企業Phytelligence ↗は、フロリダ州の柑橘類生産者と提携し、抗ウイルス性の台木を提供すると発表しました。この台木は病気を治癒するものではありませんが、感染のリスクを低減します。Phytelligence社の独自技術「MultiPHY」は、リンゴ、サクランボ、モモ、ナシ、ブドウなどの果樹の繁殖を5倍速く進めることができ、育種期間の短縮に貢献します。
有効な生物防除菌
イスラエルのスタートアップファンドCopia-Agro ↗は、イスラエルの大学の技術を商業化しています。同社の技術は新しい内生細菌に基づいており、この細菌は植物の師部に侵入し、病原菌を分解することで柑橘類グリーニング病を抑制します。
光触媒材料
中国のスタートアップは、改質したナノ二酸化チタンを用いた柑橘類グリーニング病対策の実験を行っています。この材料は自然光下で超酸化物イオンを生成し、病原菌を殺菌することができます。現在、広西省、江西省、広東省で試験が進行中です。
レーザーによる抗菌療法
フロリダ大学の研究チームは、レーザーを用いた柑橘類グリーニング病対策を開発しました。この技術は、レーザー処理により葉に微小な圧痕を形成し、抗菌剤の浸透を促進します。この新技術により、抗菌剤の使用頻度を減らし、環境への悪影響を抑えることが可能になります。
ミカンキジラミ駆除用レーザー装置
元マイクロソフトエンジニアのネイサン・マイヤーボルド氏が設立したIntellectual Ventures Laboratoryは、ミカンキジラミなどの飛翔性昆虫をレーザーで駆除する装置を開発しました。この装置は赤外線LEDと反射板を使って昆虫を検知し、ターゲットを自動的に識別して撃退します。
代替作物の提案
スタートアップ企業の一部は、効果的な病気対策が見つかるまでの間、フロリダの農家に代替作物を提案しています。TerViva ↗は、ポンガミアという多年生マメ科植物を提供しており、この植物は植物油や高タンパク飼料を生産でき、農家に安定した収入をもたらします。
これらの革新的な取り組みは、柑橘類グリーニング病の被害を将来的に軽減できる可能性を示しています。